「そっちのミスでしょ!」
「払わなくていいね!」
突然、ホテルのロビーに大声が響きました。
声のする方を見ると、夫婦と見られる男女がフロントで文句を言っているようです。
フロント対応をしているのは、線の細い若い女性です。
大丈夫かな?と気になります。
「最初にご案内をしなかったのは、私どものミスです」
「認めるんだ?じゃ、支払いしなくてもいいよね!」
「ミスについては謝罪いたします。ですが、宿泊費のご精算はお願いしたく」
どうも、宿泊費の支払いについて揉めているようです。
ホテル側にどんなミスがあったのか知りませんが、宿泊費全額を支払わないと言っているのならあんまりです。
カスタマーハラスメントと受け取られても仕方ありません。
静かなロビーに響き渡る、理不尽な怒声。
周囲の人たちも足を止めて、じっと動向を見守っています。
そんな空気の中、ある男性が夫婦に近づいて、
「少し静かにしてください。そんな風に怒鳴らない方がいいですよ」
と穏やかに伝えて、立ち去っていきました。
その声掛けで、怒声が止みました。
周囲の注目を浴びていることを悟ったようです。
「……大きな声を出して、悪かったわね」
冷静になったのか、フロントの女性の説明と謝罪を受け入れ、支払いをしていきました。
ほっとした空気がロビーに流れます。
ふとフロントを見ると、クレーム対応をしていた女性が、一緒にフロントにいた女性に笑顔を見せています。
笑顔を向けられた女性も、よかったね、と頷いています。
その女性も横でずっと様子を窺っていたので、安堵したのでしょう。
しかし、件の男性の対応は見事でした。
あの声掛けで、場の空気が変わったのが分かりました。
もし男性が「静かにしろ!」などと声高に注意していたら、よりこじれたでしょう。
こういう時に怯まず冷静に対応できる人って、ホントにすごい。
そんな人に、私もなりたいものです。

